東京愁情乱行記

怠けることに一生懸命

「徳島~東京 自転車の旅」3月13日

コロッケクラブでは比較的よく眠れたと思う。会計の際、店員が話す熊本弁が新鮮であった。九州というと博多弁を想起してしまうが、熊本弁はどことなく東北や北関東を思わせる訛りだった。いくぶん粗野に感じられるような喋り方であったが、かえって懐かしさや温かみを感じて、親近感を覚えた。

カラオケを出た後、まずは汚れた服をクリーニングをすることにした。鹿児島までのストックが無かったし、何より数日間風呂に入っていなかった為、髪と体の気持ち悪さが限界だった。もちろん冬であるからそこまで汗をかくわけではないのだが、自動車の真後ろを何十時間も漕ぎ続けるわけだから、汚れの原因は排気ガスや埃によるものだった。ただ、12日と13日は雨の予報であったのに、全く雨に濡れることなく走れたのは全く幸運であった。

クリーニングを終え、我々は日奈久温泉に急いだ。普段は清潔さに関しては比較的無頓着であるが、この時は川にでも飛び込みたくなるくらい、とにかく髪の毛を洗いたい一心だった。温泉に到着したのは昼ごろだった。どうやらかなり歴史のある温泉らしいが、街は閑散としていてどこか寂しい印象があった。快晴ならもう少し明るい印象を受けたのかもしれない。

温泉センターに着くと、熊本城で出会った一行の自転車が並べて置いてあった。自転車で旅をする人達にとって、温泉ほどありがたい存在はないのだ。ついでに温泉以外で欠かせない存在と言えば、コンビニ、コインランドリー、宿泊地(カラオケやネカフェ)だろう。さて、温泉センターに入ると、溌剌とした体格の良い若旦那が出迎えてくれた。中はそこまで大きく無く、これといった特徴も無かった。貸タオルが無かったので、仕方なく1枚購入した。温泉はと言えば、シャワーが妙に滑りっ気があり、ボディーソープを流した後にも何かスッキリしたい感じであった。ただ髪の毛を綺麗にすることが出来たから、それなりに満足した。風呂から上がると、先程購入したタオルをゴミ箱に捨て(荷物が限界だった)食堂にて長崎ちゃんぽんを食べた。これはかなり美味しかった。

温泉を出て、出水に着いたのは夜だった。出水については何の前情報も無かった為、かなり小さな町を想像していたのだが、駅は思った以上に綺麗だった。ライトアップに映えるSLが印象的であった。夕食を探すことになり、ネットで調べてみると、出水市は日本でも有数の鳥・卵の名産地らしく、最近ではそれらを使用した「親子ステーキご飯」というご当地グルメに力を入れているらしい。是非食べてみたいと思った我々は、「魚松」という料理屋に入り、「親子ステーキご飯セット」を注文した。親子丼のようなものを勝手に想像していたのだが、肉を鉄板で焼き、卵を卵かけご飯と目玉焼きにして食べるというシンプルなものだった。食材の美味しさをそのまま味わって欲しいということだろうか。

恥ずかしながら、私は鶏肉なんてものは安い物も高い物も大した差は無いと思っていたのだが、それは大きな誤りであったと猛省することになった。肉はほとんど生のまま食べられるほど新鮮で、柔らかく、ほんのりと甘かった。ソースをつけるよりも、岩塩で食べるのが一番だった。卵かけご飯や目玉焼きも今まで食べたことの無い美味しさだった。また、女将さんもとても親切な方で、お土産にと大きなみかんを4つも頂いた。正直荷物をこれ以上増やしたくない我々にとっては有難迷惑と言わざるを得ないが、気持ちだけは涙が出るほど嬉しかったので、ありがたく頂戴した。

魚松を発ち、「グランデリゾート」なるネカフェに宿泊した。ネット回線が非常に重く、ろくにアニメも観られ無かったのは残念だったが、フラットタイプの寝心地はとても良く、快眠することが出来た。